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陽のあたる場所

 

久しぶりの休日、何をしよう。

暫く考えて、虎徹は夕方の来客に備えて掃除することにした。

「ここが汚いとバニーちゃんあっさり拒否するからなー。」

うきうきと下心を躍らせながら、ロフト階は特に綺麗にしなくてはと

リネン類を洗ったものに取り換え、シーツを綺麗に張る。

ベッドサイドの棚をひと拭きして、虎徹はふとその一角を見つめた。

棚の上には読みかけの本と亡き妻の写真。

それはとても大切なものだけれど、大切な人を傷つけるもの。

「この写真…ここじゃなくてもいいよな。」

虎徹はフォトスタンドを手に取り、階下のリビングボードに置いた。

「うん。別にここに移したって友恵は怒らない。」

妻の写真を無邪気に笑う娘の写真の隣に並べ、虎徹は頷いた。

「掃除はこれでよしと。後は買い出しだな。」

虎徹は玄関でハンチング帽を頭に乗せ、車のキーを手に取った。

 

まだ11月になったばかりだというのに、

街はもうクリスマスの装いを見せはじめていた。

並び立つ店がどこもいつもより華やいで見える。

「そうだ酒買い足しとかねえとな。ロゼの旨いのがあるといいけど。」

虎徹は買いこんだ食料品の袋を一度車に積み込んで、

1ブロック先のリカーショップへぶらぶらと歩きだした。

通りを吹き抜ける風が今日は一段と冷たく感じる。

「寒くなってきたなー。俺は熱燗にしようかな。」

バーナビーにも試しに飲ませてみようなどと考えながら

やってきた酒屋の隣を見て虎徹はおやと首をかしげた。

 

見慣れない雑貨店で沢山の若い女性客が楽しげに品物を見ている。

「あれ、こんな店前からあったっけ。」

店頭にはクリスマスツリーやリース、ぬいぐるみが並び、

クリスマスソングが賑やかに聞こえてくる。

「楓が好きそうだなこういうの。また今度覗いてみるか。」

そう思いながら通り過ぎようとしたその時、

ふとそれが虎徹の目に付いた。

赤と緑、二色のガラスで縁取られた真鍮の写真立て。

世間にとってはこの二色はクリスマスカラーだろう。

けれど、虎徹にとってはその二色は自分たち二人の色だ。

「…いいな、これ。」

それはあの窓辺によく似合うような気がした。

虎徹は僅かに気後れしながらも、女性だらけのその店に入った。

「すいません、これ下さい。」

「プレゼントですか?

「あ、はい。」

虎徹は気恥ずかしさからつい縦に頷いてしまった。

「包装はいかがいたしますか?

店員が差し出した3種類の見本をみれば、

そこにも黒や柄物の他に、赤と緑のラッピング。

「じゃあこれで。」

虎徹は照れ笑いを浮かべながら自分たちの色を指した。

 

家に帰った虎徹は食料品と酒をキッチンに置くと、

さっきの包みを手にロフトに上がった。

包装を解き、一番良く撮れているそれを挿しこんで窓辺に置く。

「へへっ。これ見たらバニーなんて言うかな。」

窓辺に置かれた新しいフォトスタンド。

中に入れたのは先月バーナビーの誕生日パーティーの時に

仲間に撮ってもらった自分たち二人の写真。

満面の笑みの虎徹に肩を抱かれ、

バーナビーがはにかんだように笑っている。

「これからは、ここはお前の場所だからな。」

あいつ喜んでくれるかなと、虎徹は満足げに笑った。

午後遅い陽の光が窓辺に柔らかく差し込んで、

ガラスの中の二人の笑顔を優しく包んでいた。

 

 

終り