ライバル
≫今回はお招きありがとうございました。See you!
≫ブルーローズのHOLD ME NIGHT。
今週はゲストにバーナビーブルックスJrさんをお迎えしてお送りしました。
皆、来週も聴いてくれなきゃ完全HOLDしちゃうぞ。
エンディングBGMが流れ、スタジオ内のマイクがオフになる。
「お疲れ様、ハンサム。」
「ブルーローズさんもお疲れ様でした。」
和やかな雰囲気で収録が無事終了しようとしたその矢先、
PDAがけたたましく鳴った。
「ボンジュー、ヒーロー!」
アニエスの声にバーナビーとブルーローズが慌てて席を立つ。
「シュテルンメダイユ地区サウスシルバーで強盗事件発生よ。場所は…。」
二人はアニエスの指示を聞きながらスタジオを飛び出した。
「二人とも頑張ってください!!」
背中にスタッフたちの声援を受け、
二人はタレントの顔からヒーローの顔に切り替わる。
狭い通路を抜け、行きかうスタッフたちを巧みな足捌きでかわして走る。
その時バーナビーのPDAが鳴った。
走りながら回線を繋ぐとワイルドタイガーが映る。
≫バニー!今からそっちへ向かう。一階機材搬入口で待機しろ!!
「了解!よろしくお願いします!!」
バーナビーは速度をあげ、一階へと急いだ。
「こちらブルーローズ!シュテルンラジオ搬入口までお願い!」
ブルーローズは指示した場所へと懸命に走った。
ヒール靴のせいで走りにくい。
このままでは脚の強いバーナビーに競り負ける。
ブルーローズは頭の中に局内の地図を思い描いた。
「お先に〜!!」
ブルーローズは「Staff only」と書かれた扉を開け、中に駆けこんだ。
バーナビーは一瞬の逡巡の後、彼女の後を追うのはやめた。
「土地勘のない路地より知ってる幹線道路だ!」
毎週ここで仕事をしているブルーローズと同じ道を辿れば、
いつまでも彼女の尻を追わざるを得ない。
「あっちが土地勘ならこっちは…。」
バーナビーは階段室に駆けこみ、踊り場へ飛び降りた。
段差は一切使わず、踊り場から踊り場へ。
一階の階段室から通路に走り出ると、その先の車寄せまで一気に走る。
「僕の脚に勝てると思うなよ!!」
地の利がなく小回りが利かないなら、自慢の脚で猛追すればいい。
その作戦は功を奏した。
少し先に広い機材搬入口に向かうブルーローズの後ろ姿を捉えた。
<よし、タイタン社のトランスポーターはまだだ。うちのは…。>
屋外に出て車道の左のほうを見ていたブルーローズが
追ってきたバーナビーを振り返り、悔しそうに唇をかんだ。
遠くから大型車の近づく音がする。
<勝ったか!?>
バーナビーは車寄せまで一気に走った。
彼がブルーローズと並んだ瞬間、目の前に紅いトレーラーが迫った。
「バニー!」
車体の扉は開け放たれ、彼に伸ばされる手がブルーローズの鼻先を掠める。
アンダースーツ姿のワイルドタイガーはブルーローズを一顧だにせず、
その真摯な目はただ相棒の姿だけを捉えている。
「お先に!!」
バーナビーはブルーローズに余裕の笑みを浮かべると、
助走をつけてトレーラーへ跳んだ。
真っ直ぐに伸ばしたバーナビーの手をワイルドタイガーがしっかり掴む。
走る車から振り落とされないよう、二人の腕が抱き合うように互いに回される。
その姿に妙に艶があったように思えたのは気のせいだろうか。
一瞬自分を振り返ったバーナビーの口許が微かに笑っていたような。
ブルーローズはその様を見てカッと頭に血が上った。
アポロンメディアのトレーラーは扉を閉め、そのまま走り去った。
「な…何よあれ!!ムカつくー!!」
ワイルドタイガーは完全に素で自分を見ていなかった。
バーナビーは明らかに勝ち誇った顔をしていた。
歯噛みするブルーローズの背後から漸く大型トレーラーがやってきた。
「遅いじゃない!!完全に出遅れたわ!!」
スタッフに八つ当たりしながら、衣装を替え髪を氷で固める。
「絶対絶対絶対!!今日はあいつらに負けないんだから!!」
ブルーローズは今日なら絶対零度まで行けると憤慨して出撃の時を待った。
「ところで虎徹さん、どうしてまだスーツ着ていないんですか?」
バーナビーはアンダースーツに着替えながら訊ねた。
「ん?だって一緒に装着するほうが気合入るんだもん、俺。」
バーナビーはその答えを聞いて擽ったそうに笑った。
「わかります、それ。」
装着チャンバーのプラットホームに立つと二人の顔から笑いが消えた。
身体をなぞる赤と緑の光線に気が引きしまる。
「さあ、行きましょう。今夜はブルーローズが強敵ですよ。」
「え、なんで!?」
意味が分からないワイルドタイガーにバーナビーは柔らかく笑った。
「さっき、ちょっと挑発しちゃいまして。」
「へ、挑発?何て!?」
この人、さっきあれだけブルーローズを無視しといて
全く何も気づいてないのか。
どうやら彼女に喧嘩を売ったのは自分だけじゃなさそうだ。
バーナビーは、これはあとが面倒そうだと溜め息をついた。
「いいじゃないですか。僕らは全力で犯人確保するだけです。」
「ん?ああ、そうだな…?」
さっぱりわけがわからないというタイガーに、
バーナビーはちょっと笑ってフェイスガードを下ろした。
「さあ、行きますよ。タイガーさん。」
終り