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Bunny

 

まさか、こんな言葉で思い出すなんてな。

そこまで嫌がってたなんて、全然気付かなかった。

…って、一番初めは嫌がるのわかってて言ったんだっけ。

本名の語感と、スーツのヘッドんとこの形だけで。

嫌がらないほうがどうかしてるよな。

大の大人、しかも男が人前で“Bunny(うさちゃん)なんて呼ばれれば。

しかも思った通り嫌がってんの分かって、嬉しくなってさらに連呼して。

…小学生か、俺は。

ほんと、今更だけど…ごめんな。

 

ジェイクとの一戦の後、お前はバニーという

俺の呼びかけに普通に返事してくれるようになった。

なんかさ、すげえ嬉しかった。

さっき言った嫌がってんのが嬉しいのとは全然違うぞ、言っとくけど。

初めはともかく、俺はいつの間にか愛称のつもりでお前をバニーって呼んでた。

俺もガキの頃、友達におふざけ半分で「こてっちゃん」なんて

ホルモンみてえな綽名つけられて最初嫌だったけど、そのうち普通に返事してたから、

友達にも悪意がないの分かってたから、それと同じだと思ってた。

 

いや…。

本当は、いつの間にか、バニーという呼び名に俺は違う意味を込めていた。

他の奴には絶対そう呼んでほしくない。

俺にとってだけ、可愛いBunnyでいてほしい。

その気持ちがもしお前に伝わったのなら、

その想いがあの狸爺の汚らしい洗脳からお前を解放してくれたのなら…。

俺は全てのことにカタがついたその時、お前に全てを打ち明けようと思う。

俺の心の奥にしまいつづけた、お前への気持ちを…。

 

 

いつからだろう、貴方にバニーと呼ばれることを嫌だとは思わなくなったのは。

最初に感じたのは怒りと屈辱でした。

バニーと呼ばれるたびに「バーナビーです!」といちいち訂正するほどに。

まあ、貴方のほうもあの時は喧嘩売ってたようでしたし、

正しい反応だったと思ってますよ。今でもね。

でも本当は、ジェイクとの戦いより前に気づいてました。

いつからか貴方にそう呼ばれることが、実はさほど嫌ではなかったことに。

でも、自分の心の変化が理解できなくて、つい冷たく突っぱねてしまった。

思い当たる理由の一つは、僕が綽名とかニックネームというものに

慣れていなかったから…だと思います。

でも、それなら慣れるに従って他の人からそう呼ばれることも受容できますよね?

今だから言いますけど、僕は他の人にBunnyと呼ばれるのが死ぬほど嫌いです。

たまにあるんです。

ファンレターなんかで、僕のことをバニーと書いてくるのが。

あれを見ると、もう読むのをやめてしまうほど嫌なんです。

お前にウサちゃん呼ばわりされる覚えはない!なんて。

大人げないですよね。

でも、それほど僕にとってバニーという呼び名は貴方だけに許せるものなんです。

 

さっき貴方の悲しそうな声が聞こえて、僕の脳は破裂しそうでした。

怒りと、呆れと、喜びと、そして…ああ、今はまだこれは言わないでおきます。

とにかく貴方と駆け抜けるように過ごした日々の記憶と感情が、

いっぺんに押し寄せてきて、一瞬パニックを起こしていました。

よく最後の最後で、蹴りを止められたなと自分でも思います。

貴方の涙声の呟きが聞こえるまで、僕の心は憎悪と殺意だけで出来ていましたから。

 

貴方が黙って諦めていたら、僕は確実に貴方を殺していた。

そしてその後に洗脳がとけることがあれば…その時僕の心は死んでいたでしょう。

多分…体のほうも遠からず後を追ったと思います。

僕にはもう…虎徹さんしかいないから…。

貴方がバニーちゃんと呼んでくれたことに、心から感謝します。

できれば、ちゃんづけは勘弁してほしいんですけどね。

 

でも…本当にありがとうございます。

僕みたいな弱っちいウサちゃんをその腕に温かく抱きしめてくれて。

全部終わったら、勇気を出して伝えます。

僕の気持ちのすべてを、虎徹さんに聞いてほしい。

 

 

だから…この戦いから絶対に生きて帰ろう。

だから…この戦い、負けるわけにはいきません。

お前に

貴方に

まだ言っていない大切な言葉があるから。

 

 

終り