Mail to
To バニー
Sub TV見たぜ
久しぶり。元気か?
さっきTVのニュース見たぜ。
お前、マーべリックの遺産を相続して、
全額ヒーローアカデミーに寄付したんだってな。
俺マジで感動した。
お前がもともと金にまったく執着しねえのは知ってたけど、
それにしたって、赤の他人のためになかなかできることじゃねえよ。
お前は今でも本物のヒーローなんだなって嬉しくなった。
さすがバーナビーだって楓なんかいつも以上に感激してたぜ。
校長が言ってたけど、学校だけで使うには余りにも額が大きいから
迫害されたりするNEXTの子供を救う基金を立ち上げるらしいな。
あとは未解明の部分が多いNEXT能力の研究にも充てられるってさ。
きっとご両親もサマンサさんも天国で喜んでると思う。
俺も誇らしいよ。
俺のバディはこんなすごいやつなんだって。
今どこにいるんだ?
オリエンタルに来ることがあったら必ず連絡しろよな。
お前とまた一晩中飲み明かしたいよ。
じゃあ、またな。
To 虎徹さん
Sub 見られちゃいましたね
お元気ですか?
メールありがとうございます。
寄付は内密でって言ったのに、TVで流れたそうでびっくりしました。
シュテルンビルトにいたらさぞ面倒なことになってただろうなあ。
寄付は僕が貰う謂われのないお金だったのと、正直言って
まだあの男を完全に許せない気持ちがあったからだけのことです。
TVで言ってたような美談じゃないんですけどね。
あの敏腕プロデューサーが上手いこと話を持って行きましたね。
もっとも僕があの遺産をどう思っていようと、
貨幣価値に変わりはありませんから、
より有効利用してくれる校長の英断には感謝するばかりです。
トニーやクリームのように、能力が原因でいじめられたり
挙句の果てに反社会勢力にしか居場所を見つけられないのは悲しすぎますから。
なんて、二年前の僕だったら思いつきもしませんでした。
貴方のおかげです。
かつての僕はH-01と大差ないような精神構造をしていましたから。
貴方と出逢って、僕は少しは変われたと思います。
僕は今、日本のとある大きな空港にいます。
虎徹さんのルーツのある国に行ってみたいと思い、
旅の初めの目的地をここにしました。
折紙先輩が食いつきそうな写真をいっぱい撮りましたよ。
昔ロード…トノサマですか?が治めていたお城や、一番高い山にも行ってみました。
西のほうにある町ではみんながお節介すぎるくらい優しくて、
ああ虎徹さんのルーツはここなのかもしれないとちょっと感動しました。
旅の途中で、虎徹さんが好きそうなお酒を見つけたので送りました。
ご実家が酒屋さんなので、送るのはちょっと迷いましたけどね。
いつかまた、貴方とお酒を酌み交わせたらと思います。
あ、搭乗案内が始まりました。
もう電源を切らないと。
これから、ドラゴンキッドの祖国を訪ねるつもりです。
きっと彼女のように元気でパワフルな人がたくさんいるのではと楽しみです。
虎徹さんもどうかお元気で。
楓ちゃんにもよろしくお伝えください。
またメールします。
では。
「お父さん、お風呂空いたよ。」
楓が髪を拭きながら戻ってきた時、俺はメールを眺めてつい笑っていたらしい。
「なんか嬉しそう…。あ!バーナビーさんからメール来たんでしょ!!見せて見せて!!」
楓はそう言うと半ば無理やりに俺からケータイを奪い取った。
「こら、人に来たメールを勝手に読むな!」
そう言いながらも俺は楓から端末を奪い返したりはしない。
「へえ、バーナビーさん旅行してるんだ。いいなあ。」
楓は俺にケータイを返し、うっとりしたような声で言った。
「旅行というより旅だろうな。」
俺はそう言って、もう一度メールを見た。
あいつは4歳以降の人生を他人にいいようにされ、
誰も自分をヒーロー扱いしないところでいろいろ考えたいと言っていた。
たった4つで止まっていた時間がやっと動き出したんだ。
たくさんの景色を見て、たくさんの人に会って、
ゆっくり自分を取り戻せばいい。
それでもどうしても、自分の在り処が見つけられなかったら…。
その時はここへ来ればいい。
俺は、いつでもお前を受け入れるから。
搭乗案内を待つ間、僕は虎徹さんからのメールをいつまでも眺めていた。
寄付なんて大したことじゃないのに、虎徹さんにここまで褒められると
してよかったななんて思ってしまう。
彼は今でも僕の一番大事な人だから。
虎徹さんが故郷に帰ると聞いて、最後に聞いてもらった我儘は
「旅に出る僕を見送って欲しい」だった。
家族の待つ…奥さんの眠る故郷に帰るあの人の背を見送るのは
余りに辛かったから…。
虎徹さんは空港で僕を見送り、別れ際にぎゅっと抱きしめてくれた。
水や生物に気をつけろよ。
知らない奴についていっちゃだめだぞ。
あと絶対に自分が金持ちだって知られないようにしろ。
貧乏学生のバックパッカーを装うんだぞ。
もう、知らない奴に身ぐるみはがされたりどっかに売り飛ばされるとか
僕にそんなことをしようとする哀れな小悪党のほうを心配してくださいよ。
僕がそう言うと、虎徹さんは笑ってくれた。
バニー、たくさんいろんなものを見てこい。
いいことも嫌なことも。
そんで、やっぱどこにもいい場所がなかったらオリエンタルに来い。
そう言って、笑顔で送り出してくれた。
だから、僕はたくさんのものを見てきます。
いつか貴方に逢って話せる日がくるといいな。
僕は携帯の電源を切り、搭乗案内の始まった機内へと向かった。
終り