虎の試練
これは俺があいつと付き合う前の話だ。
大事なことなのでもう一度言う。
俺はこの時点でまだバニーと付き合ってない。
俺・・・あの時よく我慢できたよなあ。
あの日と同じ格好でベッドに横たわるバニーを前に
俺はあの試練の日を思い出した。
「おいバニー、大丈夫か?」
馴染みのバーで飲んでいたその日、だるそうなバニーに俺は訊ねた。
「すみません、このところ忙しかったから疲れてるのかな。」
そう言って笑うバニーの眼許はすこし血色が悪い。
「大丈夫か?吐きそうか?」
「いえ、それはないんですけど、ちょっと眠くて。」
そっか、気分悪いんじゃないならいいけど。
「僕、普段あんまり酔わない方なのに。」
「ああ、疲れてる時ってちょっとの量ですげえ酔うんだよな。」
そう言うとバニーは子供みたいにこっくりと頷いた。
「ふわふわするけど、でもきもちいーです。」
バニーは見たこともない無邪気な顔で笑った。
とりすましたTV用じゃない、素の可愛らしい笑み。
ってこんなでかい男に可愛いって、正気かよ俺。
俺も酔ってんなと自分でも笑ってしまう。
ジェイク事件以来、こいつはTVにCMに引っ張りだこだ。
俺もあれからは随分とその手の仕事が増えたが、
バニーのそれは俺とは比較にならないほど、その量が段違いに多い。
「お前ほんと最近働き過ぎだよ。そのうち倒れちまうぞ。」
そう言うとバニーはまたふわっとした笑みを浮かべた。
「だいじょーぶです。れも、こてつさんがしんぱいしてくれるのうれしいな。」
『れも』って。
『でも』って言えてねえし。
マジでそろそろ呂律も怪しいな。
これはこれですっげ可愛いんだけど…って何考えてんだ俺。
ほんと俺も大概酔ってるな。
「そろそろ引き揚げるか。送ってくよ。」
俺はバニーの背中を軽く叩いた。
「大丈夫れすよ、女の子じゃないんれすから。」
んなこたあ、この体触ったら分かる。
ぱっと見は身体の線が細げに見えるが筋肉ムキムキなのは知ってるし。
中性的なのは顔だけ、身体はすげえ男らしいし。
アンダースーツ着るときは真っ裸だから、こいつのイチモツだって何度も見た。
そう、見てるんだよこいつの全裸。
こいつ綺麗な体してるんだよな、すげえ白くて。
筋肉ついてるけどスリムで、そのくせ尻や太腿がむっちりしててそそるっつうか。
一回でいいから、あのケツ鷲掴みにして揉みしだきたいっつうか。
アンダースーツの上からケツの割れ目に指這わせたり
孔に指先突っ込んでみたりとかして恥ずかしがらせてみたい。
俺、尻フェチなんだよなー。
『あ、イヤ、だめ!虎徹さんやめて…。』とか言われたら犯しちまうかも。
ああダメだ、処女を無理矢理じゃ可哀そうだよな。
・・・ってちょっとまて、そうじゃねえだろ!!
酔ってるんだよな、俺?
目ぇ覚ませ、俺??
「どーしたんれすか、虎徹さん。」
バニーの声で俺は我に返った。
ありがとうバニー。
俺もうちょっとで引き返せないターニングポイント曲がるとこだった。
「僕ひとりでかえれますから、きょうはここで・・・うわっ。」
バニーはそう言いながらバーのスツールから降りようとして転びそうになった。
「危ねえ!全然大丈夫じゃねえじゃねえか。」
俺は完全に酔っぱらったバニーの肩を支えた。
「いいから、送ってく。危なっかしいぞお前。」
俺も別の意味で危なっかしいけどさ。
でもバニーは妙に頑なに首を振った。
「もー、ひとりでかえれますよー。」
どこがだ。
そんな口調で言ったって説得力ありませんよー。
「そんなヘロヘロになってたら心配だっつの。」
「おんなのこじゃないっていってるでしょー。」
女じゃなくても危ねえんだよこの辺は。
こんなとこで酔い潰れてお前がその辺の野郎にレイプでもされたら…。
俺だってまだ食ってないのに。
・・・だーかーらー、いろいろおかしいぞ俺。
そもそもいくら酔ってるからってKOH犯せる猛者がいるかっつの。
いたら殺すけど。
このムチムチの桃尻は俺のだ。
って何が誰のだって?
…もしもーし?
俺大丈夫ですかあ?
と、とにかくここからだったらうちの方が近い。
「バニー、今夜はもううちに泊まってけ。ゴールドステージまで帰るのキツイだろ。」
バニーはなんだか幼い眼で俺を見て嬉しそうに笑った。
「いいんですか?じゃあ、おとまりします。」
「おう、散らかってるけど気にすんなよ?」
バニーは俺に寄りかかって屈託のない笑みを浮かべた。
「ふふ。僕おもちかえりされるの、はじめてだ。」
その言葉に俺はぶっと吹きだした。
お前どこで覚えたそんな言葉。
「坊ちゃん、いけませんよ?そういうこと外で言っちゃ。」
「だってそういうんでしょう?いえにつれてかえること。」
ん?
まさか意味分からず言ってるとか?
ほんとにお持ち帰りしちゃうよ?
悪い虎さんがウサギちゃんの腿肉ガブッて食っちゃうよ?
が、実際そう簡単にいくわけもなく。
こうして俺のひとり我慢大会の一夜が幕を開けた。
「どうしてこうなった…。」
先にシャワーを浴びたバニーがロフトのベッドでぶっ倒れている。
それはいい。
上で寝ろと言ったのは俺だから。
俺、スウェット渡したよな?
お前バスルームから出た時それ着てたよな?
なんでお前パンイチで寝てるの??
一体これ何の試練?
「バニー、風邪引くぞ。服着て寝ろ。」
「んー・・・。」
バニーはうつ伏せで枕に顔を押し付けたまま完全に寝てしまっている。
俺はせめて上掛けをかけてやろうと、バニーの脚元に手を伸ばした。
すると視界に入る魅惑の双丘が…。
ほんといい形してるよな、こいつの尻。
「バニーちゃーん、服着ないとイタズラしちゃうぞー?」
「んー・・。」
俺は触りこそしないが、ついその尻をガン見した。
女のそれとは違うけど、プリンと張りのある膨らみ。
引き締まった割れ目がアンダーにうっすらと影を作る。
尻のてっぺんをそーっと指でつついてみた。
うわ、すげえ弾力。
肌が柔らかくて、でも筋肉はしっかりしてて。
今度はそーっと掌で撫でてみる。
「ん…やあ・・・。」
鼻にかかった妙に色っぽい声を出してバニーは寝返りを打った。
よかった…。
これ以上見てたらパンツ脱がせて揉んでしまったかもしれない。
ヘタしたらケツこじ開けて突っ込んだかも。
残念ながら今の俺は酔っていない。
今やったら、俺はガチでそっち系の人だ。
しかも酔っぱらった世間知らずの同僚を連れ込んだ挙句襲ったゲス野郎だ。
自分で言っててなんだが、最低だなその『ゲス野郎』…。
ふ…布団かけよう布団…。
見えるから悪いんだ。
きっとそうだ。
けどバニーが布団の裾を踏んでいるので脚を退けないといけない。
そっと太腿に手をかけるとすべすべというかむっちりというか…。
あー、撫でまわしてえ。
だから待て俺。
「重っ。さすが脚技マスター、鍛えてるよなー。」
俺はあえて色気とは程遠いことを必死で考えた。
そうそう、これは男の脚。
つーか、何人もの犯罪者をぶちのめしてきた凶器。リーサルウェポン。
…いや、今ぶちのめされてんのは俺の理性なんだけど…。
「男の尻で欲情する俺って…人生オワタって奴だよな…。」
見てるから悪いんだと視線をそらした。
目を逸らした先、そこにあったのは綺麗なピンク色の乳首だった。
アジア系だとメラニンの関係で桃色乳首はあまりお目にかからない。
俺は興味本位でちょっと突いてみた。
「ん…。」
嫌そうな「うーん」より一瞬感じちゃった「あん」に近い声を出して
バニーは細い眉を顰めた。
「可愛い声だしちゃって。」
今度は悪戯心だった…はずだ。
俺はそのピンクのぽっちりをクリクリと指先で捏ねくりまわした。
「あ・・・やぁっ・・・。」
ビクンと身体を跳ねさせ、バニーが身を捩った。
「うそマジ…感じちゃった?」
男が乳首で感じるなんて知らなかった。
偶々だよな。
じゃあ、もっかい・・・クリクリこねこね。
「ああん・・・。」
寝ながら甘い声をあげたバニーの桃色乳首がピンと勃ちあがった。
「気持ちいいんだ・・・。へ、へえ・・・。」
ここで残念なお知らせが。
おっ勃ったのは俺の息子さんも同様だった。
そりゃこのところこういう声はご無沙汰だったけど…。
いくらすげえ美人でもこいつ男の子だから!
俺はなんか泣きそうになってきた。
寝よう。
布団かぶって寝よう。
そう思って俺はバニーの隣に身体を横たえた。
このままじゃ俺、いろんな大事なものをいっぺんに失いそうだ。
・・・が、眠れない。
隣から聞こえる穏やかな寝息。
俺のスウェット越しに伝わるあいつの体温。
そしてなぜか俺の脚に絡まるムッチリ太腿。
なんで俺完全ホールドされてんの!?
ちょ、離れてバニーちゃん。
俺のワイルドタイガージュニアがえらいことになりはじめてるんだけど!?
「こてつさん・・・。」
寝言で俺を呼ぶ声が聞こえた。
バニーはすごく幸せそうな顔で眠っていた。
たぶん俺の夢を見ながら。
長い間、不眠症と悪夢に脅かされてきたバニーが
俺の隣で安心して眠っている…。
「お休みバニー。」
俺はその幸せな眠りを壊したくなくて、必死で羊の数を数えた。
バニーの体温と寝息で興奮した俺は実に15894匹の羊を数えた。
そしてその夜見た夢は・・・悲惨だった。
俺が全裸のバニーに圧し掛かって獣のように突き上げてる夢。
また夢の中のバニーちゃんが可愛いのなんの。
ああん!とかだめえ!!とか、女の子みたいにひんひん啼いちゃって。
真っ白なお尻を揉みたおして、ピンク色の入り口に俺の息子さんを…。
そして合体!!発射!!
ちなみに体位はバックでした。
桃尻サイコーッて思った時に眼が覚めた。
・・・何が最悪って、目が覚めた時の俺の気持ちよ。
自己嫌悪のくせに、二度寝してもっかいあの夢が見たい気持ち。
久しぶりに中坊みてえに朝からしっかり勃ってたよ・・・。
唯一の救いはバニーが朝弱い体質でまだ寝てたことだ。
だって俺、バニーに抱きつかれたままえらいことになってたんだ。
なんと俺は寝ながらバニーの生尻を触ってた。
しっとりすべすべした、それはそれはナイスなお尻でした…。
俺は何とか美脚ホールドから抜け出してシャワーに飛び込んだ。
いろんなもんを洗い流して俺はなんとか気持ちを立て直した。
俺は変な夢を見ただけだと。
でも掌にじんわり残るあいつの尻肉の感触に俺はもう駄目だと思った。
あの尻もっかい触りてえと本気で思った。
戻れない曲がり角を俺は曲がったことを認めた。
コーヒーでも飲んで目を覚まそう。
俺は濃い目に入れたコーヒーで正気にかえろうと頑張った。
やがて20分ほどしてバニーはスウェットを着て上から降りてきた。
「おはようございます。」
いやに気恥かしそうだけど、どんだけ覚えてるのかがちょっと怖い。
「おうおはよう。コーヒー飲めそうか?」
「あ、はい。いただきます。あの…昨夜はすみませんでした。」
「はは、誰だってたまにはそんな夜もあるさ。」
起きてから昨夜酔い潰れたことを恥ずかしそうに詫びるバニーに
俺は心の中で土下座した。
俺の方がよっぽどひどい有様でしたと。
「よく眠れたか?」
そう訊ねるとバニーはほんのりと頬を染めた。
「なんだかとても気持ちのいい夢を見ました。内容は全く思い出せないんですけど。」
その言葉に俺はコーヒーを噴きそうになった。
「へえ、気持ち良かったんだ?」
「また見たいな。どんな夢か覚えてたらよかったのにな。」
その夢が眼の前のオッサンに何発も突っ込まれてる夢じゃないことを願うよ。
そして・・・。
俺もまたあの夢見たいなあ。
まさか数ヵ月後、あの夢以上の事を致す間柄になろうとは
この時の俺はまだ知らなかった。
人間、ふっきれると何でもありになるもんだよな。
パンイチで横たわる恋人の姿に俺は笑った。
「おい、そんな格好してるとイタズラするぞ?」
「あの夜みたいにですか?」
枕から顔をあげて蟲惑的な顔で微笑んだバニーに、
俺はやっと、初めからこの兎にしてやられていたのだと知った。
「兎の分際で虎をおちょくるとはいい度胸だ。」
俺はあの日あれほど焦がれた兎の腿肉にかぶりついた。
終り