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B支援者

 

「やだ気持ち悪い!!何よその話!!

「ボクたちの偽物…死んじゃったの?

「漫画みたいだけど…現実、なんですよね?

「なんて話だ…信じられん。」

「信じられないが、ワイルド君が嘘を言ってるわけがないね。」

「そうねえ…。でも、だとしたら黒幕は一体…。」

 

火災現場の出動後、トレーニングセンターに集まった仲間たちは

虎徹とバーナビーの話に皆一様に愕然とした表情を浮かべた。

何者かによって造られた自分たちの偽物があの廃工場跡で消失した。

並大抵の修羅場に慣れたヒーローたちもさすがに顔色が悪い。

「おそらく、あの火災は偽物を処分するために放火されたのでしょう。」

消防の報告によるとドクターが処刑されていたあの部屋が

一番激しく燃えていたことから火元と断定された。

数名分の遺体は勝手に済みついた浮浪者として処理されたようだ。

「救助された人達も皆ホームレスだそうだ。あそこで何をしてたかは知らねえと。」

「本当に知らないのかは疑問よね。変な臭いだってするだろうし。」

「いや、化学薬品の廃工場なら腐敗臭がしようが誰も気にしねえだろうさ。」

口々に言う仲間に虎徹は首を縦に振った。

「それにあの奥の部屋は内鍵が掛かっていた。一応見ておこうと扉を破ったんだ。」

「それじゃホームレスはその件には関わってないと見て良いわねえ。」

虎徹の説明に皆は一応理解は出来たというように顔を見合わせた。

「ねえ…皆本当は生きてたの?殺されちゃったの?偽物だって…可哀そうだよ。」

気持ちがついて行かないらしくブルーローズとドラゴンキッドは

泣きだしそうな顔で俯いている。

「うちの工場跡地で舐めた真似を!どこのどいつよ!!

ネイサンが気色ばんで二人に詰め寄った。

「落ち着いてください。まだ誰が主犯かは分かりません。」

ネイサンはその言葉に渋々引き下がりつつも苛立たしげに長い爪を噛んだ。

「警察の発表はどうなっているんだろうか。」

「おそらく発表はないでしょう。」

バーナビーが渋面でそう言うと皆が驚いてバーナビーを見た。

「どういうこと!?そんな大事件を発表しないなんて。」

「…当局にとってはもみ消したい話ということか?

バーナビーはどこまで話したものかと虎徹を振り返った。

「皆にも聞いてもらおうぜ。さっき二人で話していたこと。」

「そう…ですね。皆さんこの話はここだけのオフレコで。」

バーナビーの言葉に虎徹が後を引き取った。

「今朝の『BBJ死亡』のニュース見たろ。警察も報道各社もなんかおかしい。」

虎徹はそう言ってバーナビーを見た。

「いやな例えでごめんバニー。もし仮にだ。」

虎徹は皆を見回した。

 

もし仮に本物のバニーが深夜何らかの事故でバンゲリング河に転落、死亡したとする。

6時に遺体が発見されて二時間以上も会社や俺に連絡がないまま

朝のニュースになるなんておかしいと思わないか?

バニーはメディア企業最大手所属のヒーローだぞ。

突っ込みどころが多すぎて追いつかねえってこの事だろ。

だいたい、あの遺体をバーナビーブルックスJr本人であると誰が身元確認したんだ?

マーベリックさんは海外出張中で連絡がつかないらしい。

もしバニーが事故死したなら、本来警察はどんな手段を使ってでも

マーベリックさんに連絡を取ろうとするはずだ。

社長とどうしても連絡が取れなければ、ヒーロー事業部部長なり

ワイルドタイガーなりに身元確認を要請するのが筋だろ?

けど、警察はそれを怠ったまま発表、アポロン系列以外の報道各社が一斉に飛びついた。

流石にうちの会社は社長やロイズさんに確認取ってて

朝の誤報ラッシュに出遅れたらしいけどな。

で、まあうちの会社の事は置いといて。

身元確認も曖昧なまま報道垂れ流しってのがなんか作為的だろ。

しかもバニーが生きてるんだから、すぐそれが誤報だってばれちまう。

自分たちの信用を失墜させるだけの愚かな騒動としか言いようがない。

だけど、誰かがバニーを『社会的に』消そうとした気がするんだ。

警察やマスコミを上手く躍らせてな。

そんなの一人や二人の力じゃ無理だ。

何らかの組織だった系統で、意図を持ってやってる。

誰が何のためにそんなことをしたのかは分からない。

ただ、偽物を造っていた誰かにとってこの世にBBJは二人も要らなかったはずだ。

誰かが偽バニーをこの世に送り出し、本物のバニーを消そうと考えたんだと思う。

消そうとした本物が無傷で、摩り替える予定だった偽物が

自爆ないし処分される状況になったのは犯人にとって致命的大失敗だったはずだ。

 

「それって、犯人は偽物のバーナビーと入れ替えに本物を殺そうと思ったって事?

「そんな映画みたいなこと出来るの!?

「俄かには信じがたいですね…。でも、タイガーさんは敢えてそう考えたんですよね。」

年少組の畳みかけるような問いにタイガーは少し自信なさそうに頷いた。

「無茶な話だってのは言ってる自分でも思うよ。けどなんつうかさ…。」

「だいたい、本物と入れ替えなんて普通に考えたら家族とか友達が気がつくよね。」

ブルーローズの言葉にバーナビーは少し寂しそうに頷いた。

「そう言った意味ではヒーロー8人中一番摩り替えやすいのは僕だったんでしょうね。」

 

僕は素性を公表しているうえに身寄りがありませんから。

親しい間柄の人もここにいる人たちとサマンサおばさん、マーべリックさんぐらいだ。

外見をよく似せてしまえば、家族のいる人に比べると身元確認は誤魔化しやすい。

マーべリックさんやサマンサおばさんだって、僕の特徴…

小さな痣や身体の傷なんかをつぶさに知っているわけではありません。

血縁者は全員亡くなっているのでDNAによる鑑定も不可能ですし。

顔や体格が酷似していれば押し切ることは可能でしょう。

ブルーローズさんのように身近に家族がいたりすればすぐ疑われますし、

ファイヤーエンブレムさんのコピーなら複雑な仕事の面で粗が出るでしょう。

そこへ行くと僕は一人暮らしだし、仕事も流動的だ。

粗という面では、虎徹さんの目を欺き切れるかははなはだ疑問ですが。

でも仮に虎徹さんが「あれはバニーじゃない」と言っても

家族ではない者の訴えを周囲がどれほど真剣に取り合うか…。

奴らもあらん限りのデータで『BBJとして周囲が認知するモノ』を

造ろうとしていたわけですからね。

現にNEXT能力の対処か、ありえないほどの筋力増強を図っていたようですし。

欠陥品が暴走して河に落ちたのは単なる結果オーライという奴ですから。

おそらく、計画第一号は僕だったとみて間違いないでしょう。

 

バーナビーの仮説に皆が重い息を吐いた。

人をすり替えるという話にはどうにも思考が追いつかないが

自分がいなくなっても周囲は気づかないなど背筋の凍るような話だ。

虎徹はそれ以上に、バーナビーの説が哀しかった。

自分がこの世から消えてもほとんど気づく人はいないと思っているなんて。

「俺は分かるからな!お前が偽物に摩り替えられたらすぐ気付くからな!!

虎徹の腹立たしげな叫びにバーナビーは嬉しそうに頷いた。

「そう、ワイルドタイガーの目を欺けると思った時点で犯人は詰んでるんですよ。」

「そうだ!俺はだまされねえぞ!!バニーの癖も体の特徴も一番分かってんだ!!

鼻息荒く宣言した虎徹に、バーナビー以外の一同は生温かい笑みを浮かべた。

「でもいざって時のために家族になっといた方がいいなあ。バニーこのまま法務局行くか。」

虎徹のその言葉にバーナビーは頬を染めブルーローズが絶句した。

「はいはい、おのろけは家でやってちょうだい。よかったわねハンサム。」

ネイサンに肩を叩かれ、バーナビーは虎徹を見て苦笑した。

「虎徹さん、勢いで法務局とかいうもんじゃありませんよ。」

「何言ってんだ!結婚は勢いだ!!…俺と家族になるのは嫌か?

「嫌なわけないでしょう!!それ…本気で言ってるんですか?

突然互いしか見えなくなった二人に周囲はダメだこりゃと半笑いになる。

「はいはいはい!そんな大事な話は家でする!!

ネイサンはずれかけた論点を軌道修正しようと仲間を見回した。

「で、これからどうするの?警察もメディアも当てにならないんじゃ…。」

ネイサンの言葉にドラゴンキッドが首を傾げる。

「偽物が焼けちゃって一応一件落着じゃないの?

「私たちのコピーがあれだけだったらね。まだ何かあるんじゃないの?

ブルーローズは気持ち悪そうな表情で言った。

「だってタイガーたちに情報漏らしたお医者さん、それで殺されちゃったんでしょ。」

その言葉にバーナビーははっとした顔で呟いた。

「情報…それだ!

「え、何!?いきなり叫ぶなよバニー。」

バーナビーは虎徹の苦言を気にせず続けた。

 

ドクターが僕たちに伝えようとしたことはあそこで聞いた全てじゃなかったんです。

彼の話は偽物を解剖すれば遅かれ早かれ表ざたになりうる話だった。

僕たちが介入したから殺されたのなら、他に彼が伝えようとした何かがあるに違いない。

きっと処刑される原因となったのはあの画像診断のデータだ。

あれにきっと何か僕たちがまだ気付いていない何かがある。

あれを見れば…。

いや、僕たちだけで見ても門外漢ばかりで埒が明かない。

ペトロフさんにも立ち会ってもらって司法局の管轄内に居る医師に診てもらいましょう。

何せあの組織が絡んでいる事件です。

普通の医師に依頼したのではあのドクターの二の舞だ。

そのうえでこの情報はヒーロー、司法局、OBCの中だけで囲い込んだ方がいい。

警察や他のメディアには黒幕の息のかかった筋があるようですから。

 

 

「なるほど、経緯はよく分かりました。仮説の方は俄かには信じられませんが。」

ユーリは一同の顔を見回し神妙な顔で頷いた。

司法局の会議室に出向いた一同はやれやれと胸をなでおろした。

「貴方がたに危害を加えるのは簡単ではないでしょうが、楽観視は危険ですね。」

気難しい管理官がこんな突拍子もない話を信じてくれるか不安だったが、

ユーリは一部始終を真剣な面持ちで聞いた後全面的サポートを約束した。

「その画像診断のデータはお預かりします。」

バーナビーがユーリにデータを手渡すのを見た虎徹はふと思いついた。

「あ、そうだ!俺のスーツの映像記録!!

何事かと皆が注視するのも構わず虎徹は携帯で通話を始めた。

「あ、斎藤さん?虎徹です。俺のスーツの記録映像のデータを…。」

そうかとバーナビーは頷いた。

「あの現場で虎徹さんは処分された偽物やドクターを調べていましたね。」

どうして自分もしっかり見ておかなかったのだろう。

そういうところがまだまだこの人には追い付けないなとバーナビーは

少し落ち込んだような表情を浮かべた。

「僕もあそこにいたのに…気づきもしなかったなんて。」

「んな顔すんなよ。苦手な火事場でお前はよくやってた。」

虎徹はそう言ってバーナビーを慰め、ユーリに向き直った。

「スーツに現場の映像が残ってました。それも提出します。」

ユーリは頷きヒーロー一同を見回した。

 

この件については私が指揮を取りましょう。

皆さん、この件は迂闊に他者に知られるとその人も危険に晒します。

直属の上司まではよしとしますが、基本他言無用で。

ワイルドタイガーの話によればウロボロスが関与していることは間違いありませんから。

それから何か情報を掴んだ場合、まず私に連絡してください。

貴方がた自身の命を護るためです。

あの組織が関与している以上、単独行動は危険です。

とくにバーナビーさん。

貴方はウロボロスの事になると普段の冷静さを失う傾向がある。

充分に気をつけてください。

 

ユーリの忠告にバーナビーは素直に頷いた。

「はい。身勝手な単独行動は絶対にしないと誓います。」

少し悄然としたバーナビーの肩を抱き虎徹が言った。

「大丈夫、こいつはもう以前のバーナビーではありません。もう暴走はしませんよ。」

バーナビーが驚いて虎徹を見ると、虎徹は毅然とした眼でユーリを見ていた。

「こいつはもう、独りで連中と闘わなくていいんですから。」

その言葉にバーナビーは唇を噛みしめ俯いた。

背中を優しく叩く手が温かい。

<この温かい手を偽物に取られるなんてまっぴらだ。>

バーナビーはこの事件の犯人を必ず捕えて見せると心に誓った。

 

 

続く