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Cラボ

 

―分かっているね、ドクター?君の計画は明らかに失敗だ。

―待ってくれ!あれはあと少しで完成するんだ!!そうすれば…。

―往生際が悪いですよ博士。所詮、人体を創造するなど無理だったのだ。

―ロボット遊びに興じる貴様なぞにこの計画の崇高さが分かるか!!

―ロボットなどではない!アンドロイドだ!!そんな違いも分からんのか!!

―まあまあ、落ち着いて。ともかく、出資を受ける以上結果が要るんだよ博士。

―それを貴方は出せなかった。これは上の決定だ…来いSYSプロトタイプ。

―な!!や、止めろ!!助けてくれ頼む!!

―おやすみ、博士。

―ハイジョタイショウカクニン。ショウキョシマス。

―うっ…うわああああ!!!!

 

 

「今日はどうなってるんだ一体!!

奇声を上げ暴れまわる男に当て身を当てて組み伏せようとした

ワイルドタイガーが吹っ飛ばされるのを見てロックバイソンが叫んだ。

「これで3件目だぞ、錯乱野郎が暴れるのは!!

「言ってねえでバイソンてめえも闘え!

タイガーは強かぶつけた腰を摩りながら立ち上がり再び構えた。

「んだよこいつ!NEXTでもねえのに異常なバカ力だ!!

虎徹の言葉にバーナビーはやっぱりと確信を強めた。

<理性も時間制限もない文字通りの暴徒…性質の悪い。>

バーナビーはメットの下で小さく舌打ちした。

「きえええ!!

「うわあ!

折紙に向かって突進してきた男の前に発動して立ちはだかる。

「バイソンさん!!

「ウッシ止めた!!下がってろ折紙!!

男はフラフラと数歩下がり別の獲物を探すように淀んだ目を周囲に泳がせる。

その背後でバーナビーが動いた。

「喰らえ!!

高く跳躍したバーナビーの鋭い飛び蹴りを男は指一本で受け止めた。

「何!?

にい、と男が不敵に笑った。

「くそっ!

振り払われるのを察知したバーナビーが背面のブースターを噴かせ

蜻蛉を切って地に降り立つ。

「うそ!ハンサムの攻撃をあんな簡単に!!

男は薄笑いを浮かべたままブルーローズに照準を変えた。

「やだ来ないで!!

そう言いながらも彼女はエスケープせずリキッドガンを男に合わせた。

「うああ!!

唸り声をあげ遅い来る男にブルーローズは必死でガンを撃つが

男は氷の弾き返し彼女に迫った。

「きゃああ!!

劣勢を悟った彼女が今度はエスケープしようとしたその時。

「スカーイハァーイ!!

ブルーローズの背後から強烈か風が吹きすさぶ。

「援護するぞブルーローズ君!もう一度ガンを!!

「え、う、うん!!

ブルーローズは男を睨み再びリキッドガンのトリガーを引いた。

「観念なさい!!

「スカーイハアーイ!そしてハアーイ!!

風が冷気を纏い強烈なブリザードとなって男を襲う。

「うおあああ!!

下半身を完全に氷で固められ、皮膚のそこかしこを鎌鼬が切り裂いた。

動きを封じられた男に折紙が叫んだ。

「今です!物理で落としてください!!

その声に呼応するように三人が拳を、脚を、棍棒を上段に構える。

Good Luck Mode! Tiger&Barnaby Over&out!!

「うおお!!

「ハア!!

「サア!!

「ふがあ!!

三方からの凄まじい攻撃を受け男は漸く失神した。

「…信じられない。ほんとに人間なのこいつ。」

「なんて力だ…。」

ブルーローズと折紙にファイヤーエンブレムは首を横に振った。

「生身の普通の人間じゃないわよ。きっと例のアレ。」

その言葉にブルーローズは目を見開いた。

「あそこが焼けて終りじゃなかったってことは…。」

バーナビーはフェイスシールドを跳ね上げ男を睨みつけた。

「きっとまだどこかにこいつらを造る『ラボ』があります。」

そう言うとバーナビーはいきなり男の衣服をむしり取った。

「お、おいバニー。何やってんだ。」

過度の暴力は司法局に咎められるぞとタイガーが諌めると

バーナビーは冷めた目で男の脇腹を睨んだ。

「ありました。連中が噛んでいる決定的証拠です。」

一同はそれを見て息を呑んだ。

男の脇腹には尾を噛む蛇のタトゥが彫られていた。

 

警察には内通者がいる。

虎徹とバーナビーの判断で直接連絡を受けたユーリが駆け付けた時、

男はまだ失神していた。

「管理官、こっちです。」

「皆さんご苦労様です。こいつが例の。」

ユーリの言葉に虎徹は男の脇腹を指した。

「こいつはウロボロスのメンバーかあるいは…。」

ユーリは同行した他の司法局職員の手前ただ頷いた。

「例の件の『サンプル』かもしれないということですね。」

困惑気味に頷いた他のヒーローたちを見回し、ユーリは男をじっと見た。

「分かりました。この男の素性も含めて司法局内のデータベースを当たってみましょう。」

「凄い!司法局には誰のデータもあるの!?

ドラゴンキッドの素直な問いにユーリは微笑した。

「それでは恐ろしい管理国家ですよ。司法局にデータがあるのは犯歴のある者だけです。」

そりゃそうかとドラゴンキッドは気恥ずかしそうに頭を掻いた。

「でもまあ、なんかやらかしてそうな顔よね。」

ブルーローズは辛らつに言い放ち、チンピラの典型のような男を見下ろした。

「そうですね。こいつに前科があると楽なのですが。」

ユーリの言葉に虎徹は苦笑した。

「ダメっすよ、裁判官さんがそんなこと言っちゃ。」

ユーリは虎徹の指摘に苦笑した。

「ああ、そうですね。私としたことが。」

前科があれば始末しやすいのだが。

そんなユーリの本音に気づくわけもなく虎徹は笑った。

「今のは聞かなかったことにします。で、ものは相談何すけど。」

急に真摯な声音になったタイガーの物言いにユーリは何でしょうと

柳眉を寄せた。

 

 

「さて、許可は貰ったもののどうしたもんかな。」

トレーニングセンターに戻った虎徹たちは休憩室の椅子に腰かけ

これからの策を考えた。

「ラボを探しだして急襲するなんて、よく管理官がOK出しましたね。」

バーナビーは意外そうに首を捻った。

「警察に連中との内通者がいるんじゃ正規の手続きは意味がないと踏んだんだろう。」

「でも、警察の仕事に司法局が首突っ込んじゃって大丈夫なのかな。」

「管理官はヒーローの所管については司法局長と並ぶ権力者だからな。」

アントニオが言うと折紙はなるほどと唸った。

7大企業の円卓会議にも出席するほどの人ですもんね。」

「まあ許可取れたのは良いとして…。」

ネイサンはしなのある所作で身体を捩り右掌で右頬を触れた。

「問題はそのラボの場所よねえ。心当たりあるの?

その問いに虎徹は「うむ」と頷いた。

「さすがタイガーさん!!

「すっごおい!どこなの!?

「え、あ…。それはだなあ。」

年少組の畳みかける問いに虎徹は急に言葉を濁した。

「虎徹さんがもったいぶって『うむ』と言った時だけは信じちゃいけませんよ。」

バーナビーは笑いながらPDAを操作した。

「ひでえなバニー!俺がいつどこで…。」

「トニー事件、スチールハンマー像の手の中で。」

じろりと軽く睨まれ虎徹はやっと思い出した。

「うわ、バニーちゃん根に持つ方。」

その言葉にバーナビーは口角を下げた。

20年以上前のことをしつこく追い回す性分なもので相当執念深いですよ。」

そう言いながらも目は笑っている。

だがPDAで目的のものを見つけたのかふいに目つきが険しくなった。

「ありました。僕の予測ポイントです。皆さんにも転送します。」

その言葉に皆が一斉にPDA画面を開いた。

それはシュテルンビルト市内とその周辺区域の地図で、ところどころ

紅い点が明滅している。

「これはなんだい?ずいぶんあちこちにあるんだね。」

スカイハイの問いにバーナビーは頷いた。

「ヘリオスエナジー廃工場事件の時誰かが言いましたよね。」

 

元化学薬品工場で異臭がしても誰も気にしないと。

猟奇的な人体実験なり何なりをするなら、臭いと悲鳴は不可避です。

ではどこにラボを据えるか。

元から臭い場所。

人気のない場所。

突然居なくなっても誰も気にしない人間が一定数居る場所。

それらを勘案するとこの場所になります。

ここは市街地から離れた廃病院。

こちらは下水道施設の中ですが、ここも現在は使われていません。

こっちはダウンタウン地区の元鉄工所だった場所です。

周辺は再開発で軒並み立ち退いていますが、

再開発計画自体が頓挫していて今はスラム街です。

こう言っては失礼ですが、あの辺のゴロツキやストリートチルドレンが数名

ある日を境に忽然と姿を消しても表立った問題にはされないでしょう。

狂気的な実験をする連中にとっては格好の実験室です。

 

バーナビーが列挙した街の暗渠とも言うべき場所の数々に

居並ぶヒーローたちは一様に絶句した。

長年この街を駆けまわった年長ヒーローですら

これだけの数をすぐには挙げられない。

なぜこんなことが分かるのかなどとは誰も聞かなかった。

それは20年分の悲愴なまでの努力の副産物だと容易に分かるから。

「バニー…お前…。」

痛ましげな表情の虎徹にバーナビーは柔らかく微笑んだ。

「どんな経験でもいつか何かの役に立つものですね。」

虎徹はそれ以上何も言わず、黙ってバーナビーの肩を抱いた。

その温かさにバーナビーの表情が少しだけ和らぐ。

「しかし数が多すぎるな。手分けすると各個撃破される危険もある。」

「手間取っている間に本隊に連絡を取られる恐れもあるね。」

「さっきの錯乱男がどこから来たのか分かればいいんですが…。」

「どうせ改造人間ならGPSでもついてれば楽なのにね。」

「犬の迷子防止みたい。何だっけポテトチップみたいなの。」

「それを言うならマイクロチップよ。でもあいつを手術するわけにもねえ…。」

「マイクロチップ…。」

仲間の話を聞いていたバーナビーはふと思いついた。

 

確かにコピー人間を世間に放つなら造った側は製品の所在を管理する必要がある。

体内にマイクロチップ、充分ありうる話だ。

それなら偽物の僕にも入っていたんじゃないのか?

あいつの遺体は…ダメだ。

警察の所管に入った以上、もう処分されているだろう。

…いや、まてよ!?

 

「そうだ!あのドクターのくれた資料!!

「んだよバニー!いきなり叫ぶなよ、びっくりしたー。」

虎徹の苦言もスルーしてバーナビーは珍しく興奮気味に言った。

「偽バーナビーのMRIデータのほかにマイクロチップの解析履歴でもあれば…。」

その言葉に虎徹が首を傾げた。

「偽バニーはあの火事のあった場所で造られたんだろ。意味ねえんじゃ…。」

その問いにバーナビーは首を横に振った。

「あの場所にそれほどの設備はなかった。あれは多分ただの倉庫です!!

その会話に折紙が納得したように頷いた。

「目立たない場所で造って、便利な場所で保管…。理にかなってますね。」

「だとしたら、造った場所から保管場所への移動履歴があれば。」

スカイハイの言葉にバーナビーは頷いた。

「おそらくドクターはその情報を漏らしたことで処刑された。」

バーナビーの話に虎徹は拳を握りしめた。

「あの先生の決死の密告、絶対に無駄にはしねえ。」

例えウロボロスに所属していたとしても、あの医師は人の心を持っていた。

密告すればどうなるかも覚悟の上で自分たちに情報をくれたのだろう。

「管理官にそのことを伝えて、あの資料を大至急解析してもらおう。」

司法局は行政や警察の不祥事に備え独自の情報解析チームをもっている。

そこにマイクロチップを解析してもらえば何か分かるはずだ。

虎徹の言葉にバーナビーが頷いた。

「場所が特定され次第、ラボを押さえましょう。」

その話はすぐにユーリに伝えられ、

OBCを通じて正式に指令が出るまで待機せよとの指示が出された。

その数十分後、皆のPDAが一斉に鳴り響いた。

―ボンジュー、ヒーロー!!管理官からのミッションを伝えるわ!!

 

 

続く