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Escape from

 

 

1.his love

 

嘘だ…。

バニーが…こんな…。

ああそうか、これドッキリだ。

なあ、アニエス、そうだろ?

降参降参!!

もうマジでこっちが心臓止まるかと思ったって。

だからもう…。

…え?

みん・・・な・・・?

なんで、泣いてるんだよ。

ちょっと、もういいって。

バニー、お前も起きろって。

終了!ドッキリは大成功!!!

おい!しつこいぞ!?

いいから早く起きろって!!

・・・え?

…なあ、なんで、こいつこんなに冷たいの?

いくら平熱低いったって、いくらなんでもこれじゃまるで…。

…なあ、ネタなんだよな?

バニー?

なあ、バニー!!

う・・・そ・・・だ・・・。

嘘だ!嘘だ!!嘘だ!!!

誰か嘘だって言ってくれよ!!

嫌だ!

こんなの嫌だ!!

俺は信じないぞ!!

 

 

 

バニーが・・・死んだなんて・・・

 

 

なんで、応えてやらなかった…。

どうしてこの手を伸ばしてやらなかった!!

ずっと独りぼっちで、寂しい人生を送ってきたあいつが

初めて生きることを幸せだと思えたかもしれないのに。

<だって、まさか昨日の今日であいつが死ぬなんて…。>

思わないわけがないだろう!!

何年この業界で飯食ってるんだ!!

<でも俺は友恵を今でも…。>

違う!

俺はただ逃げただけだ!!

死んだ女房を言い訳にして、

あいつの真剣な想いに向き合おうともしなかった。

今の関係が居心地いいから、壊したくなかったから。

 

 

ごめんな、バニー。

痛かったな。

苦しかったよな。

もっと、生きたかったよな。

助けてやれなくてごめんな。

つらい思いばかりさせてごめんな。

 

お前の気持ち、応えてやれなくてごめんな…。

 

 

昨日、俺はバニーに告白された。

ずっと、俺のことが好きだったって。

でも、俺は断った。

理由はまあ…友恵を今も愛してるからと。

それ自体は嘘じゃない。

でも俺はバニーをそんな目で見たことなんてなかったから、

びっくりして反射的に断ってしまったというのが本当のところだ。

ただ、自分ではどうしようもないこと…

性別を理由にするのは卑怯な気がした。

それに仮にバニーが女の子だったとしても、たぶん結果は同じだった。

「ごめんな…。」

そう言った俺に、バニーは泣きそうな笑顔で首を横に振った。

「僕の方こそ、虎徹さんを困らせてしまってごめんなさい…。」

可哀そうに。

告白するの、すごく勇気が要っただろうに玉砕させちまった。

馬鹿だよお前…。

なんで、こんなオッサンに惚れちゃったの。

やっと自分の好きに生きられるようになったのに。

お前ならどんな女だって、いや男のほうがよかったとしても。

俺以外なら誰だって振り向かせることができるのに。

誰とだって、幸せになれるのに…。

 

「明日までには立ち直ります。だから…。」

だから、せめて明日からも今までと同じように隣に立たせてください。

ワイルドタイガーの相棒として。

震える声でそう言われて否と言うはずもない。

「俺の相棒はお前だけだよ。」

俺が応えてやれるのはそれが精いっぱいだった。

「虎徹さん…ありがとうございます。」

そう言ったあいつの眦に光るものが見えた。

泣かせてしまったのに、俺は思った。

ああ、綺麗だなと。

「あのさ、お前の気持ち自体は嬉しかったから。」

バニーはもう言葉を出せないのか、小さく頷いて去っていった。

その背中を追いかけて、抱きしめてやれたら…。

俺も好きだよって言ってやれたら。

あいつは幸せになれたのに。

俺はそう思った自分を戒めた。

そんなことしたってバニーを更に傷つけるだけだ。

…これで、よかったんだ。

 

相棒としてなら、俺はあいつが大切だから。

少し時間はかかるかもしれないけど、

きっといつか、あいつが今日のことを笑い話にできる日が来る。

来る、はずだったんだ…。

 

それが…こんな…。

こんな永遠のサヨナラになるなんて…。

 

 

俺たちの出会いが突然なら、別れも突然だった。

告白の一件があった次の日、あいつの胸を凶弾が襲った。

ヒーロースーツどころかアンダースーツすら着ていない

ごく普通の日常生活をたった一個の鉛玉が切り裂いた。

「バニー!!

その場に倒れたあいつを抱え起こすと、

バニーは何が起こったのか分からないような、

きょとんとした妙に幼い顔で俺を見ている。

あいつは自分の胸をべったりと濡らす血を、

不思議そうにその手に取った。

白い手が紅く染まった。

「ああ、僕死ぬのか。」

興味なさそうな顔で血まみれの手を見て、

ふうんと気のない様子であいつは納得したように頷いた。

「まあ、いいや…。」

それが、あいつの最期の言葉だった。

 

 

続く→