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Sexy Honey Bunny

 

虎徹はバーナビーの発言に目を見開いた。

ほろ酔いだった頭が一気に醒めていくのを感じる。

「お前…今の、マジで言ってんの?

バーナビーは虎徹の狼狽ぶりに、真剣な顔で頷いた。

「それでウロボロスの本体に少しでも近づけるならその手段もあり得るでしょうね。」

別に好き好んでやるわけじゃない。

それしか手段がないなら、それで末端ではなく本体のほうに接触できるならば…。

そのくらいの犠牲はいくらでも払う。

バーナビーは妙に思い詰めた目で決然と言い切った。

「お前…いくらなんでもそれは…。だめだ、それはやめておけよ、な?

虎徹はバーナビーの手を両手で握って、彼の翻意を促した。

「情報を引っ張り出すためにお前の身体を使うなんて、馬鹿なこと考えるんじゃない!!

 

「そいつがウロボロス本体とつながってる確証はあるのか?

もしそいつがただの下っ端だったら、お前がただ傷つくだけじゃねえか。

いや、仮にそいつが上層幹部だったとしたら…。

それはそれで危険すぎる!!

やるだけやられて殺されるかもしれねえじゃねえか!!

とにかく、お前はあれだ。

もっと自分を大事にすることも覚えろ。

確かにお前は綺麗だよ。そこらの下手なモデルの女なんかよりよっぽどな。

上手くやればその…なんだっけ、ハニートラップ?

それ自体をしかけることはできるだろうさ。

けどその…失うものが大きすぎる!!

お前の心と体に、一生消えない傷が残るんだぞ!

俺は…そんなボロボロになったお前を見るのは耐えられない。

 

バーナビーは必死で自分を止めようとする虎徹に、自分の覚悟が揺らぐのを感じた。

この人の優しさは、時に自分には強すぎる麻酔薬だ。

「虎徹さん…。『もしも』の話ですよ。

そうする価値のある構成員すら接触できてないんですから…。」

困ったように言い募るバーナビーに、虎徹はいいやと首を横に振った。

「もしも、の段階で反対しとかねえと。その時がきたら、お前は黙ってやるからな。」

そして、たった一人で傷ついて、またその心に新しいトラウマを抱えかねない。

虎徹は想像するのも嫌だというように激しく頭を振った。

「とにかく、お前はほんともっと自分を…。」

「自分を大事にするって…、どうすればいいんですか?

伏し目がちにそう訊ねたバーナビーに、虎徹は言葉を失った。

 

よくそう言われるんです。

でも…その方法というか、具体的にどうすることを『自分を大事にする』なのか…。

保身…とは違うんだろうなとは思います。

けど、その先が皆目見当がつかなくて…。

 

虎徹はバーナビーの述懐に胸が詰まりそうになった。

こいつは…本当に自分を大事にするということが分からないんだ…。

「お前…。いい、もう、何も言うな。」

虎徹はバーナビーを真正面から抱きしめた。

「ちょ…虎徹さん、どうしたんですか急に。」

「バニー…。お前の覚悟、俺が見極めてやる。」

虎徹はバーナビーを横抱きに抱え上げ、ロフトの上にある寝室に連れ込んだ。

そのままベッドに彼の身体を投げ出したかと思うと、有無を言わせずその身に圧し掛かる。

「ちょ…虎徹さん!やめてください!!

「やめない。」

虎徹はバーナビーの両手を頭の上で纏めて片手で押さえつけ、

もう一方の手は無遠慮にバーナビーのシャツの裾を胸まで捲りあげる。

バーナビーが蹴りあげようと動いたが虎徹に膝の上に乗られ、

脚の機能を奪って抵抗を封殺された。

「こて…んぅっ…!!

乱暴なキスで制止の言葉を妨げられ、素肌を撫でまわされてバーナビーの頬に

朱が走り、屈辱の涙が流れた。

虎徹はその姿に胸が痛むのを押し殺し、バーナビーの両手を解放した。

殴られるかと警戒しながら退いたが、バーナビーは放心したように動かない。

「…ほら、俺でこんなんだぞ。赤の他人だったらどうなってたか…。」

虎徹はバーナビーの横に身を起こし、乱れた彼の金の髪を梳いた。

バーナビーは涙目で虎徹を見上げている。

「手荒な真似して悪かった。けど、これで分かったろ…。

もう、馬鹿なこと考えるんじゃない。」

「…ごめんなさい…。」

バーナビーはそう言って横たわったまま虎徹に背を向けた。

まだ震えるその背がいつもよりずっと小さく見える。

「バニー、その…。嫌な思いさせてごめんな…。」

バーナビーは背を向けたまま、首を横に振った。

「僕こそ…虎徹さんに嫌な仕事をさせてしまって…済みません…。」

涙声で素直に謝るその姿が痛々しくて、虎徹はバーナビーの肩にそっと手を置いた。

 

「お前が自分を大事に出来るようになる方法…。なんとなくわかった。」

バーナビーはえ?と寝がえりを打つように虎徹のほうを向き、

ゆっくりと両手をついて上体を起こした。

「お前は…多分、人から大事にされた経験が少なすぎるんだ。」

虎徹はバーナビーをそっと抱きしめ、その背をさすった。

 

人ってさ、他人から大事にされて、初めて『自分は大事な人間なんだ』って

学習するんだって。

親から抱きしめられたり、好きな奴にキスされたりとかさ。

お前は…例の不幸な事件で、たった4歳でそれを教えてくれる人を失った。

その事件をずっと追っかけて、他人に深入りしない生き方してきたんだろ。

男とも女とも、心をぶつけあうような付き合い方しなかったんじゃないか?

そのこと自体を非難するつもりはない。

けど、その生き方の副作用が出ちまってるんだよ。

だから、少しずつでいいから、自分を大事にする方法を学習しなおそう。

大丈夫、お前は頭もいいし、すぐ分かるようになるさ。

俺も、協力できるところはするからさ。

 

バーナビーは暫し虎徹を見つめていたが、やがて小さな声で言った。

「虎徹さん…じゃあ、ひとつお願いがあります…。」

「ん?どうした。」

バーナビーは真っ直ぐな目で虎徹を見つめた。

「僕を…抱いてください…。」

 

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