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shuffle

 

@シャッフル

 

これでも喰らえ!!ぎゃははは!!

青い燐光と共に周囲を走った衝撃が犯人を取り巻いていた全ヒーローを襲った。

…が、これといって変化はない。

「何だぁ?

「貴様何をし…。」

一番近くにいたバーナビーが犯人を締め上げ問い詰めた時だった。

「うわあっ!!

短い悲鳴と共にスカイハイが中空から突如墜落した。

「スカイハイさん!!

思いもかけない事態に折紙が慌てて駆け寄った。

他の者も何事かと空の覇王に起きた珍事に目を向ける。

「いきなりどうしたのよアンタ?

「分からない。ジェットパックの故障だろうか。」

首を傾げるスカイハイに犯人はまたけたたましく哂った。

「これは俺からのプレゼントだよ。皆さんせいぜい愉しんでくださあーーい!!

訳が分からないが、こいつの態度は不愉快だ。

一同は顔を顰め、殊に顔の露出した女性陣は露骨な嫌悪を犯人に向けた。

「詳しいことは警察で白状してもらう。だがそれまで寝てろ!!

バーナビーは犯人の鳩尾に当て身を喰らわせ失神させた。

げっと蛙のような声をあげ犯人がその場に伸びる。

「おいバニー、やりすぎだろ。」

ワイルドタイガーは意外と短気な相棒に苦笑した。

「面倒な能力を持っているようでしたので。スカイハイさん、大丈夫ですか?

バーナビーがフェイルシールドを跳ね上げ心配そうに言った。

スカイハイは気恥ずかしそうに片手をあげた。

「大丈夫だ、そして問題ない。犯人連行を頼むよ。」

バーナビーはまだ心配そうに頷き、気絶した犯人をずるずると引きずっていった。

控えていた警察に犯人を引き渡すバーナビーを眼の端で見て

タイガーは強盗犯の方は任務完了だとばかり皆に目を戻した。

「それにしても…。」

アントニオは自分の両手を見た。

「俺たち全員、今何をされたんだ?

その時全員のPDAが鳴り響いた。

 

 

<犯人には前科があったわ。能力は通称『スワップ』。効力は約3日ほどよ。>

アニエスは眉間にしわを寄せ厄介そうな表情で言った。

「スワップってスワッピングとかのあれか?

「タイガー、未成年もいるのよ。自重しなさい。」

「虎徹さんスワッピングって何を交換するんですか?

「ハンサムそれ本気で聞いてるのか?

「…子供だけじゃなくて無菌室育ちもいたわね。」

「ねーねー、スワッピングって何?

「ドラゴンキッド、聞かない方がいいわよ。変態がうつるから。」

「タイガーさん…変態だったんですか…。」

「タイガー君はそういう趣味があったのかい?意外だ、そして予想外だ!!

「だっ!ねえよそんな趣味!!

「だからスワッピングって何なんですか!?

「蒸し返すな!!

 

<お黙り!話が進まないでしょ!!

 

鬼の一喝に場が静まり返った。

「要するにその場にいたNEXT同士の能力を入れ替えてしまうのよ。」

アニエスの言葉に皆がスカイハイを見た。

「それでいきなり墜落したのか。」

スカイハイはまだ信じられないのか、能力を発動してみた。

「スカァーイ!ハァーイ!!

キンと乾いた音が短く響く。

「うわ、俺がいる!?

スカイハイの身体は宙に舞い上がることはなく、

その代わりにワイルドタイガーそっくりになった。

スカイハイは暫し己のものではないスーツの両手を見た。

「ワイルドに、そしてワイルドに吠えるぜ!!

いつものポーズで決め台詞を言うが口癖がそのままだ。

「見た目だけか。あれじゃ単なる“複写”だな。」

「あれは折紙の卓越した観察眼と演技力があって初めて“擬態”になるってことね。」

折紙は思わぬ褒められ方をされ、照れ臭そうに頬のあたりを掻いた。

「スカイハイは擬態ね…。」

アニエスは手にしたレポート用紙にSH=擬態と書きつけた。

8人もいたんじゃスワップ(交換)というよりシャッフルだな…。」

バーナビーは見た目だけのワイルドタイガーを見て困惑した。

間違えることはあり得ないが、これではスカイハイは完全に無力化されたも同じだ。

「じゃあ…皆いまは別の誰かの能力を持ってるってこと?

「そうみたいですね…。しかも発動しないと今何の力を持っているのか…。」

折紙の言葉にアニエスは頷いた。

<全員整列!!

再び飛んだ鋭い声に、8人は訳が分からないまま素直に並ぶ。

<左から一人ずつ発動して!

その言葉に虎徹が待ったをかけた。

「ハンドレットパワーが当たった奴は一時間能力が使えないぞ?

その言葉にアニエスは首を横に振った。

「事件が起きた時に自分の能力が何なのか分からないほうが危険だわ。」

そう言われればそうかと虎徹も不承不承うなずいた。

「分かった。皆、俺たちの能力が当たった時の事を考えて慎重に発動してくれ。」

「慣れていないと不用意に周囲を壊してしまいます。地面を軽く指で突くくらいで。」

バーナビーの『不用意に周りを壊す』という言葉に全員の目がタイガーに集まった。

「「「「「「確かに。」」」」」」

「だっ!!なんで俺を見るの!?

「本当に注意してください。虎徹さんは慣れてても壊すんですよ。」

「追い打ち掛けんな!!

 

<…ゴホン。>

 

アニエスの咳払いに一同は口を閉じ整列しなおした。

小学校の時こんなおっかねえ女の先生いたよなー。

タイガーはフェイスシールドの下で笑いを噛み殺した。

タイガーの態度にアニエスは直感で何かを感じ一睨みする。

<じゃあ始めるわよ。左端、ドラゴンキッドから。>

ドラゴンキッドは列から一歩前に出た。

「一番、行きまーす。サア!

キッドは慎重にと言われたのをもう忘れて掌底を地面に叩き込んだ。

ドォン!

寸止めしたにもかかわらず、辺りの地面に大きな穴と罅割れが広がった。

「うわ、すご…。」

「いきなりハンドレットパワー当たりかよ。」

ドラゴンキッドはあちゃーといいながら凹んだアスファルトをつついた。

<キッド、加減してって言ったでしょ。>

「えへへ、ごめえん。」

アニエスはさっきの用紙にDK100Pと書き足した。

「ドラゴンキッドがハンドレットパワーか。」

「彼女には相性がよさそうですね。接近戦はもともと十八番だし。」

元の能力所有者を振り返り、ドラゴンキッドは元気良く手を振った。

「頑張って制御するよ。コツとかあとで教えてね!!

屈託のない彼女に二人は苦笑した。

「お前ならその力を上手く使えるよ。」

「コツはもちろん喜んでお教えしますよ。」

その言葉にドラゴンキッドはありがとうと言って列に下がった。

<キッドは5分間大人しく座っててね。ハイ次行くわよ!

 

「二番ロックバイソン。」

「うっし!行きます!!

気合と裏腹にそっと地面をつついたが指は地に届かず、

ふわあーっとロックバイソンの身体が浮き上がった…が…。

「…一メートルほどですか…。」

「バイソン君は身体が重いからね。第一ジェットパックがなくては。」

すとんと地に降り立ったロックバイソンは肩を落とした。

「俺には使いこなせないのか…。」

装備の問題さ、君のせいじゃないとスカイハイがとりなすが

ロックバイソンはモウいいよとしょんぼり列に戻った。

RB=風。でも使えないわね、次!

もうちょっと物の言いようってあるでしょ。

ぶつぶつと不平を言いながらブルーローズが手をあげて進み出た。

 

「行きます。ハッ!

地面をつついたがそれだけでも同心円状の亀裂がビシバシと広がった。

「やだ、タイガーの能力!?

ブルーローズはどこか嬉しそうな顔で後ろを振り返った。

「あちゃー、二人目はブルーローズか。」

「彼女に最前線で徒手格闘させるのは無理がありますね。」

ロックバイソン辺りに当たればパワーファイターにちょうど良かったのに。

虎徹とバーナビーは顔を見合わせた。

「な…何よ!私じゃ不満だっていうの!?

唇を尖らせるブルーローズに二人はめっそうもないと首を振った。

「じゃあドラゴンキッドさんは僕がコツ教えるので彼女は虎徹さんお願いします。」

咄嗟にそう切り返したバーナビーを見てブルーローズはえっと頬を染めた。

「おう、ブルーローズよろしくな。でも無理すんなよ?

「だ、誰が無理なんか…。よ、よろしく。」

BR=100Pね。次ファイヤーエンブレム。>

 

「はあーい。いくわよお。」

えいと気合を入れるも突いた地面は変わらない。

<自然系じゃないわね。擬態と100パワーも出たし、あとは…。>

タイガーが足元の小石を拾ってファイヤーエンブレムに投げつけた。

カンッ!

乾いた音を立て小石は弾かれて落ちた。

「何すんじゃワレェ!!

「痛くねえだろ。硬いんだから。」

本性丸出しでドスの利いた地声にもタイガーはへらへらと笑っている。

FE=硬化ね。これまた壁にするは薄いわねえ。>

防護壁役としては細すぎる。

アニエスの言葉をそう解釈したファイヤーエンブレムは上機嫌で

腰をくねくねさせながら列に戻った。

(また出なかった…。)

バーナビーはついため息を漏らした。

 

「次は僕ですね。破っ!!

残る折紙はわくわくしながら地面をつついた。

周囲にパリパリと電撃が迸る。

「やった!雷遁の術でござる!!

心底嬉しそうな折紙に一同は笑った。

「あいつの好きそうなのばかり残ってたもんね。よかったね折紙。」

「折紙さんカッコイイ!後で雷遁教えるね!!

「お願いします!ドラゴンキッド師匠!!

ボクが師匠だってとドラゴンキッドが照れ臭そうに笑う。

OS=雷。忍者っぽいしまあまあね。あとは元100Pコンビね。>

 

「バニー、大丈夫か?

和気あいあいとしてきた空気の中、

次第に言葉数を減らしたバーナビーに虎徹は目立たぬ声音で訊ねた。

残る能力は氷と炎。

よりによって火がここまで残ってしまった。

「まだ氷も残ってる。そんな心配するな。」

バーナビーはぎこちなく頷いた。

「俺が先に行こうか?

虎徹は気遣わしげに言った。

もし自分に氷が当たっていればバーナビーは自動的に炎になる。

その時点で彼の能力は発動させる必要もない。

「いえ、大丈夫です。順番通り僕が行きます。」

バーナビーは首を横に振った。

逃げるわけにはいかない。

仮に自分の能力が炎になっていたとしたら、

スワップ効果が切れるまでの3日間、出動でその力を使わなければならないのだから。

<バーナビー、始めてちょうだい。>

バーナビーは一つ息を吸い、意識を集中した。

氷か炎なら地面に向けるより宙に向けたほうが安全か。

バーナビーは人のいない方に向かって掌を差し出した。

身体の奥から熱感が湧きあがる。

その感触がバーナビーの心にあの日の熱さと炎を蘇えらせた。

(まずい!!

バーナビーは能力を止めようとしたが、慣れないせいで制御が遅れた。

 

ゴウッ!!

 

凄まじい業火が宙を迸った。

その熱と色にバーナビーの目が見開かれ、額に冷たい汗が流れた。

止めなくては。

心はそう思うのに身体が言うことを聞かない。

あの日のようにバーナビーは燃え上がる炎を目にただ立ち尽くしていた。

家が、父さんが、母さんが燃える…。

炎の向こうでアイツが嗤ってる…。

「や…めろ…!!

悲鳴のような声が炎の轟音に掻き消された。

轟々と噴きあがる火柱に仲間たちは漸く異常に気がついた。

「う…うわ…!!

「いけない!あの子力を制御できていないわ!!

ネイサンの悲鳴に皆の目がブルーローズに注がれた。

「無理よ!私は今…!

泣きそうな顔でブルーローズが首を振る。

「氷の能力者はいま誰だ!

その該当者は答えもせずバーナビーに駆け寄った。

 

「バニー!

虎徹の呼びかけにもバーナビーは反応しない。

バーナビーの背を支えながら、虎徹はその肩越しに手を差し伸べ能力を発動した。

「うおおっ!」

慣れない能力はすぐには思うようにならない。

小さな霰がパラパラと降り注ぎあっという間に水蒸気に変わった。

「くそ、やっぱ人の能力は難しいな!」

虎徹がぼやきながら見ると、バーナビーの身体が痙攣している。

炎は制御できずますますその勢いを増していく。

「とうさん・・・かあさん・・。」

虚ろな声がバーナビーの口から洩れた。

「バニー、聞こえるか?しっかりしろ。」

必死で呼びかけながらもう一度氷の力を呼び起こす。

一気に周囲の温度が下がり拳大の氷の礫が火柱に飛び込んで消えた。

「うらあっ!!

虎徹は必死で能力をコントロールし、やがて大きな氷柱が掌から突き出た。

「消えろ!!

どうにか生み出した氷の塊が炎を呑みこむ。

「大丈夫、俺が消してやるから。落ち着いて。大丈夫だバニー。」

その言葉に小刻みの痙攣が少しずつ治まる。

「虎徹…さん…?

「ほら、消えてきた。大丈夫。お前も力を抜いて。」

言われるがまま、バーナビーは意識を必死で鎮めた。

それとともに炎が勢いを弱め、やがて完全に鎮火された。

「すみま…せ…。」

掠れた声でそう言い、バーナビーはがくりと力尽きたように膝をついた。

「バーナビーさん!

「ハンサム大丈夫!?

<バーナビー、大丈夫なの!?

バーナビーを駆け寄ってきた皆の視線から遮るように立ち、虎徹は頷いた。

「大丈夫、こいつは強いから。ただ…今は少しそっとしておいてやってくれ。」

バーナビーはまだ地面に膝をついたまま荒い息を吐いている。

仲間たちは心配そうにバーナビーを見たが、誰も声をかけるものはない。

かける言葉が見つからないのだ。

幼いころの事件がトラウマになっているのは誰の目にも明らかだった。

ヘタな慰めは却って彼を傷つける。

心配しつつも、皆は一様に口を噤んだ。

ただ一人を除いて。

<バーナビーも使いものにならなさそうね。BBJ=火、WT=氷。>

やれやれと言わんばかりのアニエスの言葉に

カチンと来たブルーローズがとうとう非難の声をあげた。

「ちょっと!さっきから何なのよその言い方!!

 

いつもと違う能力いきなり植えつけられて上手く使えると思ってるの!?

私たちがNEXT能力に目覚めてから

どれだけ制御に苦労してここまで来たか何にも知らないくせに!!

それを何よ!!使いものにならないですって!?

バーナビーなんて4つの時の火事が原因なのよ!?

火が使えないなんて当たり前でしょう!?

たかが3日間、彼を休養させたっていいくらいだわ!!

いい加減にしなさいよ、アンタ一体何さまなのよ!!

 

怒涛の勢いで捲し立てたブルーローズの肩をタイガーが優しく叩いた。

「ブルーローズ、ありがとうな。でもそれくらいで十分だ。」

「でもタイガー…。あれじゃあんまり…!!

その時バーナビーがゆっくり立ち上がった。

「ブルーローズさん、ありがとうございます。僕ならもう大丈夫です。」

まだ青い顔でバーナビーは無理に笑った。

<そうね。私が無神経だったわ。バーナビー、ごめんなさい。>

アニエスが謝罪したことでその場はおさまった。

だが、本質はまだ解決していない。

 

「とにかく皆、何とか頑張って3日間を乗り越えないとな。」

一同は互いに顔を見合わせ、いささか不安そうに頷いた。

 

 

続く